2015年7月23日木曜日

大手スーパーが土地の牛・豚に魔術を掛けて フランスの畜産農家を破壊

養豚家によってスーパーマーケット内に放たれた豚。
「農民のモンサンミッシェルへの道路封鎖の謎 中間搾取産業はノルマンディーの肉や牛乳を買って欲しい」という一文を昨日に書いた後で、これにコメントをもらい少し思うところがあって、文を追加してみた。たしかにフランスの牧畜農家の置かれている状況は危機的なものだ。ドイツや欧州諸国から搬入される安価な対抗産品に脅かされて卸値が下がっている。しかしフランス国内にあってその生産者価格の安値を演出したのは生産者農家と消費者との間にある大手スーパーマーケットだったのではないか。他にもレストランや給食産業や全国の学校給食の消費動向も見逃せない。そこには良い製品でも悪く、悪い製品でも良く見せて高く売れる仕組みや消費の魔術の手腕が牛肉や豚肉に働いていたのではないかと思えるのである。(パリ=飛田正夫 2015/07/23 14:32日本標準時)
「フランス各地で数週間にわたり問題になっていた農産物の生産者販売価格の低下でついにノルマンディーで怒りが爆破した。農家はトラクターや耕運機、トラックを動員してデモを行ってステファン・フォール農相に現地を見に来るように要求した。2日前からはノルマンディー地方の幹線道路を封鎖して抗議し始め、7月21日午後にはこの地方の有名なモンサンミッシェルへの道路も封鎖された。農民は、消費者が大手のスーパーマーケットで買う肉や牛乳などの値段と、自分たち生産者農家の卸し値との間に大きな開きがあり、中間搾取を指摘している。そしてフランス国内で消費される牛肉や豚肉などがドイツやスペインなどから来ていることを批判し、現地の肉を買ってほしいといっている」2015/07/22に書いた。

これにコメントがあって、「フランスでもどこから来たのか分からないものが売られているというのはビックリ、日本の観光地も酷いものですがフランスはそういう点は厳しい基準があるのかと思っていました」というものだ。このコメントはフランスに「トラッサビリテ」(生産・販売の経路表記義務)が無いのかという疑問だと思うが、この「ビックリ」の中身はそれだけではないように思えたからだ。そこにこの「トラッサビリテ」をはぐらかし不透明にする「赤ラベル」だの「AOC」「AOP」マークなどの「仕掛け」や「仕組み」が作られることによって、消費者側の驚きを逆になだめて隠し不鮮明にして包み込むことで、そこに不思議な魔術のごとき納得性や恭順性が強いられてきたのではないかと思うようになった。

ノルマンディー・チーズを取り上げると、「カマンベール」などではノルマンディー・チーズという名前がついていても、その原材料は特にこのノルマンディー地方産の牛乳でなくてもよい。この地方で製造すればこの「ノルマンディー」の名前を冠することができる。ですから生産工場だけをノルマンディーに置いて、原材料の牛乳はヨーロッパ各地の安いところから持ってきて作るという会社がでてくる。消費者はノルマンディーのチーズいいねといって食べるわけです。


一方、牛乳も飼料もこの土地のものを使用して製造された場合には、同じノルマンディー・チーズでもそこに一種の高級品扱いの称号が付くのです。これが「AOC」(原産地出荷呼称証明)とか「AOC」(原産地出荷統制証明)とか呼ばれるチーズです。そこに大きな違いがあり、味や風味や値段が全く違くすることができるのです。ノルマンディー・チーズといってもそういう違いがあり、これはワインでも同じです。

今度の農業従事者の卸価格の低下をめぐる抗議デモの波及が大きいために、22日に政府は支援金6億ユーロ(約9億円)を出し援助することを決めて、オランド大統領は今日23日にブルゴーニュのディジョン市でこの農業危機に関し話す予定です。

この隙をねらって今回の仏政府の支援金援助策が手遅れだとか批判したのがサルコジ氏ですが、彼は当時の責任者としてフランスの農業危機が前から始まっていたことを認識したくないようです。

ドイツの養豚の近代化は今日昨日に始まったのではないのです。ドイツの堵殺場で働くのはハンガリーやルーマニア出身の低賃金を受け入れる移民なのです。ドイツでは豚生産などは現代の養鶏場と同じように大工場でやっている。フランスでは、豚や牛が自然の山野で飛び跳ね寝そべって育っている。これでは競争はできない。フランスの農家は近代化してないのです。フランスの農村や牧畜農家が「価格競争」に勝てないのです。しかし農村や農業の近代化とは「ビオ」マークや、「AOCチーズ」や「赤ラベル」を出現させたが、こういうことではない筈である。

フランスが、「赤ラベル」をつけたり「牛の有名な品種名」をつけたりしてきたのには、狂牛病や混入肉の事件での消費者の恐怖が起因している。これは実は言い訳で、うまくこれらを利用して産品格付け化を成功させてきたのではないかということです。結局は、高級品の追求がそこに関係があったのです。それで十分に美味しい筈のフランスの格付け無しの一般農家の牛・豚肉が、大手スーパーマーケットが大量にヨーロッパ各地から力に任せて搬入した更に安価な肉を並べて、叩いたために、フランス国内の生産者卸価格が下落して競争できなくなったのです。ここに今の危機があるのです。

安物でもフランス産品と並べ混ぜて売ることで、大手スーパーマーケットとが上手に叩き、また褒め叩きを繰り返しながら消費者の格付け体系を変更させながら儲けているという構造が問題なのです。

今日のディジョンでは、オランド仏大統領が生産者と消費者の間にある大手スーパーマーケットの漁夫の利を批判しこれを罰する発言をすることを願っているのは私だけではなくて、本当は、「いいものを生産し」「いいものを食べたい」と願っている生産者と消費者なのだとおもいます。

 
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