2016年10月15日土曜日

仏「共和党」プリメールの不毛性 ジュッペにサルコジを勝たせるFNとの危険な演出

(パリ=飛田正夫 日本時間;‎15/‎10/‎2016‎‎-09:52:44)13日夜9時半から深夜12時半ごろまで、2017年の仏大統領選挙の共和党LC(前の国民運動連合UMP)内代表者を決める予選選挙(プリメール)の候補者7人が登壇してデバ(論争)が行われた。途中に長いテレビ宣伝を挟んで、1人17分の発言時間ということもあり、論争というには白熱する場面が殆どなかった。これも企画者の演出の中にあった意図なのか。テレビのどんな視聴者がどう見て考え判断をどう変えたかが問題なのだ。サルコジでは党内支持者の発表では減少化だが党外支持の流れはどうであったのか、これが一番の問題点に思える。それはペン=サルコ党が可能になるかも知れないからだ。そのぐらいに今のフランス国内のFN支持は高いので、仏大統領選挙では決選投票に行く可能性が強いということがあるからだ。危険な動きが隠れているのは確かであろう。

デバ放映時の22時30分頃には最大600万人が視聴したこの演出劇は何の為のデバであったかの焦点がぼやけてしまっている。そういう意味ではかなり恣意的に仕組まれたデバということで、面白く無くしているのかもしれない。どんでん返しも登壇者への明快な批判も何もない。デバ前の世論調査の人気結果を大きく何も変えるものは無かった。つまりとりあえずは、ジュッペとサルコジが二人残るという結果が期待されたということだ。

社会党(PS)は以前からプリメールをやっていたが、2012年の仏大統領選挙ではサルコジはプリメールに反対し、次回(2017年)はやると宣言していた。結局はサルコジ自身が大統領選挙に出たかったからプリメールをやらなかったのである。最後は落選している。国民に人気のないサルコジが、この今回初めてのプリメールに参加しているわけだが、いったい何を期待してるのだろうか。デバを介しての世論調査会社はこの点を調べているはずである。投票する党内の視聴者の事ではなくて、他党支持者の「共和党」(LC)候補者への意識変化の事である。

世論調査会社の調査目録は誰のためになされたのかは知らないが、プリメールというのが、これまでの党内支持者による候補者の選抜というよりは(まだ仏大統領選挙は行われてないのだから)、当然のこと、党外支持者の例えばサルコジだとマリーヌ・ル・ペン総裁のフランス極右派系国民戦線(FN)支持者からのサルコジへの票の流動性が期待されるわけで、これをこのデバを調査サンプルにして分析しているはずである。その点が今回のデバ(論争)での本当の関心の焦点なのだと思う。テレビ・デバを見た平均視聴者数が560万人というのも十分な調査サンプルとして意味があるのである。


サルコジの移民・難民嫌いの発言や、フランス人になればイスラム移民の先祖はガリア民族という尊厳のない同一化の政治というのは、サルコジの提案である行政拘禁を使って「リストS」の最も危険な者を監獄に入れることを国民投票で決めるというもので、この危険な考えはサルコジの支持母体と考えられる人々よりもFN支持者の心を揺するものなのだ。ベルナール・カズヌーブ仏内相は、サルコジの「リストS」発言に関し、「どんな犯罪も犯してない者をその意思があるとして牢獄に入れることは効果的でないばかりか、それは危険なもので、共和国の価値と憲法に違反するものだと」と批判している。


仏大統領でボルドー市長のアラン・ジュッペ元外相が、今回のデバ後での人気が世論調査では党員の35%を獲得してトップであった。サルコジ支持は21%とさらに低迷したがサルコジはこれでよいと考えているだろう。手足を振るわせ顔の筋肉を引きづらせて語るその神経質な態度や、だみ声の人を威圧するような話し方は、今回は自信喪失の為か極力控えられ、反論と否定で最近の疑惑を防御していたようだが、司会者の3人のジャーナリストも含めてそれを裁く左派の意見がここには誰もいないので、デバ(論争)にならないのである。サルコジはうまくコントロールできない性格らしく、1人孤立した感じであった。党員からの人気を失った原因か。しかしサルコジにとっては、そんな事はどうでもよくて、とにかく今は二番に就けるようにしていればよいわけだ。11月に二度行われる二人残る予選と一人だけ選ばれる決戦投票が本命となるので、それだけしか眼中にはないのだろう。その間に、残る5人の支持票が決戦投票でどちらかに移るのだが、これは党員が選ぶのである。だからこれは非常に可笑しな事であり、デバの意味がないのである。どうしてかというとジュッペの人気は国民的なものだが、サルコジのそれは共和党内部でしか通用しないものであるからだ。仏大統領選挙はフランス全国民が投票して選ぶのである。

それが国民的な人気があるような錯覚をテレビやラジオが様々な方法で宣伝して状況造りをやっているのは正しくはないし、平等ではないからである。いってみればこの右派のプリメールでしかないものを、国民的行事であるかのようにマスコミが騒ぎたてていることが、いわゆる仏大統領選挙での右派勢力を支援していることになるのである。民法テレビTF1を使ったのはその辺の事情が指摘され暴露される目立った事実になることを恐れたからである。


ジュッペは落ち着いた安定感があり、笑いもあって、サルコジとは対照的であった。すべては、共和党(LC 前の国民運動連合UMP)支持者が、11月23日の最終決選投票で、誰が2007年の仏大統領選挙に出るかを決めるのだが、すでに世論調査会社があれこれ予測と称して結果を発表しているのも気になる。